美術館に隠れたいちごを探して 名画に刻まれた甘い誘惑と赤の秘密
美術館の静かな空間を歩いているとき、ふと甘い香りが漂ってくるような錯覚に陥ったことはありませんか?実は、巨匠たちの描いた絵画の中には、おいしそうないちごや、その鮮やかな「赤」を思わせるモチーフがいたるところに隠されているんです。
いちごは古くから、その愛らしい形や色から、純潔の象徴や誘惑の果実として描かれてきました。今回は、14世紀の宝飾品から印象派の巨匠ルノワールまで、時代もジャンルも超えて、作品の中に隠された「いちご」を探す旅に出かけてみましょう。あなたなら、どの作品の中に一番おいしそうな一粒を見つけるでしょうか。

| 項目 | 情報 |
|---|---|
| 作品名 | Still Life—Strawberries, Nuts, &c. |
| 作者 | ラファエル・ピール |
| 制作年 | 1822年 |
| 技法・素材 | 木パネルに油彩 |
| 所蔵 | シカゴ美術館 |
まるでテーブルの上がそのまま切り取られたような、瑞々しい静物画ですよね。作者のラファエル・ピールは、アメリカで最初期のプロの静物画家の一人として知られています。実は彼、お父さんも有名な画家で、幼い頃から厳しく芸術の訓練を受けて育ったエリートなんです[2]。
この作品の見どころは、なんといっても画面中央に山盛りになったいちご。当時、いちごは非常に贅沢な食べ物でした。ピールは、そんな特別な果実を、滑らかな木製のパネルに描くことで、細部まで驚くほどリアルに表現しています[3]。

ガラスのコンポートからこぼれ落ちそうないちごを見てください。一粒一粒の粒立ちや、光を反射する瑞々しさが伝わってきませんか?

このガラスの透明感も実に見事です。光が透けて、向こう側にあるいちごがうっすらと見える様子は、当時の高い写実技術を物語っています。

脇に添えられたオレンジの皮の質感も、いちごの滑らかさと対比されていて面白いですよね。この絵が描かれたのは、アメリカが独立してまだ間もない頃。激動の時代を生きたピールにとって、こうした静かな食卓の風景は、何にも代えがたい心の安らぎだったのかもしれません[1]。
この甘いいちごを、あなたなら誰と一緒に食べたいと思いますか?

| 項目 | 情報 |
|---|---|
| 作品名 | Ring Brooch |
| 作者 | 不明 |
| 制作年 | 1340年–1349年頃 |
| 技法・素材 | 金、宝石 |
| 所蔵 | メトロポリタン美術館(クロイスターズ) |
次に「いちご」を探すのは、絵画ではなく煌びやかな宝飾品の世界です。14世紀、中世ヨーロッパで作られたこの小さなリングブローチ。よく見てみると、埋め込まれた宝石がいちごの果実のように見えてきませんか?
中世において、ブローチは単なる飾りではなく、マントや襟元を留める実用的なアイテムでもありました[5]。当時は男女問わず愛用されていたんですよ[7]。この時代のジュエリーは、現代のような複雑なカットではなく、石そのものの色や形を活かすスタイルが主流でした[9]。

特筆すべきはこの鮮やかな赤色。熟したいちごのような深い輝きを放っています。当時の人々にとって、こうした「赤」は情熱や愛、あるいは身分の高さを象徴する特別な色でした。

こちらの石は少し落ち着いた色合いですね。一つ一つの石に個性があり、まるで宝石箱の中からお気に入りの実を選んでいるような楽しさがあります。

土台となる金の表面には、細かな模様が打ち出されています。控えめな装飾ながらも、手仕事の温かみが感じられる逸品です[4]。
700年以上も前に誰かの胸元を飾っていたこの宝石。その輝きは今も昔も変わらず、私たちを魅了して止みません。

| 項目 | 情報 |
|---|---|
| 作品名 | エリザベス・グラント・バンクソン・ビーティと娘のスーザン |
| 作者 | ジョシュア・ジョンソン |
| 制作年 | 1805年頃 |
| 技法・素材 | キャンバスに油彩 |
| 所蔵 | シカゴ美術館 |
さて、こちらの母娘の肖像画、どこにいちごが隠されているか見つけられましたか?視線を少し下げて、女の子の手元に注目してみてください。
作者のジョシュア・ジョンソンは、アフリカ系アメリカ人の画家として初めてプロとして成功を収めた、非常に重要なアーティストです[2]。彼は、ボルチモアの裕福な家族をモデルにした、静謐で独特な雰囲気を持つ肖像画を多く残しました。

ありましたね!小さな女の子、スーザンが手に持っているのは、なんと「いちごの小枝」です。西洋美術において、子供が持ついちごは「純真さ」や「謙虚さ」を表すことがあります。

スーザンの表情はどこか大人びていて不思議な魅力があります。いちごを持つその小さな指先からは、家族の深い愛情が伝わってくるようです。

お母さんの襟元にあしらわれた繊細なレースも見てください。ジョンソンは、こうした細部の装飾を非常に丁寧に描くことで、モデルたちの気品を際立たせています。
この少女は、手に持ったいちごをこのあとお母さんに分けてあげたのでしょうか。そんな物語を想像するのも、アートの楽しみの一つですよね。

| 項目 | 情報 |
|---|---|
| 作品名 | ピンクと黒の帽子を被った少女 |
| 作者 | ピエール=オーギュスト・ルノワール |
| 制作年 | 1891年頃 |
| 技法・素材 | キャンバスに油彩 |
| 所蔵 | メトロポリタン美術館 |
最後にご紹介するのは、色彩の魔術師ルノワールによる少女の肖像画です。ここには直接的ないちごは描かれていないかもしれません。でも、画面全体に溢れる「いちご色」を感じませんか?
ルノワールが描く女性たちは、いつも幸福感に満ち溢れています。この作品が描かれた1891年頃、彼は印象派の柔らかな光の表現に、より明確な形と色彩を融合させようとしていました。

見てください、この唇! まさに摘みたてのいちごのような、鮮やかで瑞々しい赤色です。ルノワールは、女性の肌の血色の良さを表現するために、赤を非常に効果的に使いました。

帽子を飾るピンクのリボンも、甘酸っぱいいちごミルクのような色合いです。黒とのコントラストが、少女の可愛らしさを引き立てていますね。

そしてこの澄んだ青い瞳。周囲のピンクや赤といった暖色が、この青をよりいっそう引き立てています。ルノワールの筆致は、まるで少女の若々しい生命力をキャンバスに閉じ込めたかのようです。
「絵は楽しく、美しく、可愛らしくなければならない」と語ったルノワール。この少女の微笑みを見ていると、心までふんわりと甘い色に染まっていきそうです。
「いちごを探して」巡った4つの作品、いかがでしたか?
ある作品では主役として瑞々しく描かれ、ある作品では宝石として輝き、またある作品では象徴として、あるいは色彩そのものとして、いちごは形を変えて私たちの前に現れてくれました。
これまで「なんとなくきれいだな」と見ていた作品も、「いちご」というキーワードを持って眺めるだけで、今まで気づかなかった細部や、画家の遊び心が見えてきたのではないでしょうか。
次にあなたが美術館へ行くとき、そこにはどんな「美味しいモチーフ」が隠れているでしょう。自分だけの宝探しを楽しんでみてくださいね。
今回ご紹介した作品は、artibleの音声ガイドでもお楽しみいただけます。
静かな解説とともに、絵の前に立っているような体験を。
[1] Raphaelle Peale - Wikipedia
[2] Joshua Johnson - Art Institute of Chicago
[3] File:Raphaelle Peale - Strawberries, Nuts, and Citrus.jpeg - Wikipedia
[4] Ring Brooch - Metropolitan Museum of Art
[6] Medieval Jewelry - Wikipedia
[7] History of Brooches - Wikipedia
[8] Ring Brooch 1340-1349 - Wikipedia